Weps うち明け話 文:清尾 淳

#988

シビれて帰りたい

 蔚山現代とのACLのラウンド16第2戦で逆転を目指す、といえば一昨年の済州ユナイテッド戦で延長に決勝ゴールを決めた森脇良太を思い出す。ということで、6月25日(火)の前日練習後、本人に取材したのだが「言われて思い出しました(笑)。そんなこともありましたね」と意外な反応。

「一昨年は一昨年、今日は今日、明日は明日です」と以前のことは気にしていないと言う。たしかに一昨年のことが今回何かのアドバンテージになるわけではない。メンタル的にはプラスかもしれないが、もともと森脇は「アディショナルタイムゴール男」だ。最後まで諦めないメンタルは十二分に持ち合わせている。

「とにかく2点取って勝つしかないし、1失点食らってもメンタル的には問題ない。2点を目指して突き進む。だからパスミスが許されないのはもちろん、シュートミスも駄目。すべてにわたってミスがないように集中して戦う」と語っていた。


 また武藤雄樹は「2点取らないといけないのだから、前の選手が決めなければいけない。自分の力が試される。練習でも2点取るためにやってきた」と語り「正直、前の選手としては『失点してはいけない』という思いより、メンタル的には強気にいける。逆に1点先に決めれば向こう(蔚山現代)は、これ以上取られちゃいけないと不安を抱えながらサッカーをすることになる。それを目指して前半から押し込んで行きたい」と言う。

 このところチーム内でシュート数が多くなっている武藤だが、それは本人も「シュート数が多いのは感じている。ミドルシュートが多くなっているので、それはポジティブな部分もあるが、エリア内でのシュートというのが自分の特長。それも増やしていきたい」と語っている。

そして「サポーターにはいつも熱くサポートしてもらっているが、特にACLでは遠いところまでサポートに来てくれる。みなさんの期待に応えないといけないし、サポートを力に変えて、試合が終わった後には『来て良かった』と思えるような試合にしたい」と締めくくった。


 19日(水)の第1戦は、意外なくらいと言っては失礼だが、レッズが主導権を握れていた。前半13分に、左サイドを突破されかけたが槙野が対応し折り返しはさせなかった。それ以外は、4分に岩波の逆サイドへのロングパスからチャンスを作ったのを皮切りに興梠、山中、森脇、武藤、健勇らがシュートを放ち、37分に青木のパスを健勇が頭で沈めた。

 決して後出しじゃんけんではなく、メンバー表を見て健勇が活躍するのではないかという予感はあった。根拠は、大槻監督が健勇を先発させると判断したのだから、ということと、3か月ぶりに先発する本人の気持ちはいかばかりか、ということ。それだけだったが、おそらく多くのサポーターもそんなふうに感じていたのではないか。

 だから37分に健勇が決めたとき、シビれた。ゴールそのものではなく、この試合に健勇を先発させた大槻監督にシビれたのだ。


 思えば就任から3試合、大槻監督は交代を含めたメンバーのチョイスで毎回驚かせてくれている。そして、それがJリーグで2試合連続のアディショナルタイムゴールを生んだ。19日の蔚山戦も、1-2と逆転されはしたが、また最後には追いつくことを期待していた。それは叶わなかったが、勝負はまだついていない。第1戦を終えて劣勢ではあるが、絶望的な点差をつけられたわけではないのだ。

 2007年の全北現代戦を最後に韓国勢にアウェイで勝ったことがないレッズが、今回の第2戦で蔚山に2点差をつけて勝つというのは非常に難しいことかもしれないが、それだけに12年ぶりのアウェイ勝利が最高の快挙となる舞台が整ったと言えないか。あとは、その舞台で選手たちがどんなパフォーマンスを見せるかだ。


 19日は第1戦だったから蔚山がレッズにボールを持たせてカウンター狙いに徹していたのだと思った。蔚山は前半のシュートがわずかに1本で、その1本が同点ゴールだったのだから何と効率の良い攻めだったか。全体のシュート数とゴールの割合を見てもレッズが16分の1だったのに対し、蔚山は6分の2だ。一方、ボール保持率はレッズが63パーセント、蔚山が37パーセント。これがアウェイの戦い方なのか、と思ったが調べてみると蔚山はACLのほとんどの試合で保持率が5割を下回っている。ホームでもそうなのだ。相手に持たせて、少ないチャンスを確実に決める、というのが特長の一つなのだとしたら、第2戦もレッズがボールを持てる可能性はある。もちろんカウンターには最大の注意を払いつつだが、レッズがシュートまで行ける場面も少なくないだろう。問題は決定率ということになる。第1戦の16本のシュートのうち枠内に飛んだのは杉本の1本を含めて7本ぐらいだったと思うが、そのほぼ全てがGKの正面を突いていた。GK正面はともかく、第2戦でも7~8本の枠内シュートがあるようなら、2点、3点取っても不思議はない。


 25日(火)の前日練習では西川、マウリシオ、宇賀神、鈴木、槙野、山中、長澤、エヴェルトン、武藤、ファブリシオ、健勇、青木、ナバウト、汰木、福島、橋岡、興梠、岩波、森脇の20人が姿を見せた。このうち2人がベンチ外となるわけだが、大槻監督はこの6日間、熟慮に熟慮を重ねて来たに違いない。

「大槻マジック」と言われると、「サッカーに魔法はありません」と彼は言い返すだろう。だが「マジック」には「魔法」だけでなく、「奇術」とか「手品」の意味もある。タネや仕掛けをしっかり施して試合に臨み、意外な結果を生むという意味でなら「大槻マジック」と言ってもいいはずだ。

この日の記者会見に出場した興梠は「サッカーに不可能はない」「苦しい状況を乗り越えないとタイトルは獲れない」と語った。たしかに、過去2回も、楽に優勝できたシーズンなどなかった。


 2点差の勝利か3点以上取っての1点差勝利、あるいは2-1で延長に入っての勝利が勝ち上がりの条件。もしレッズが1点先制すれば、シビれること間違いない。明日はクラブが把握しているだけで700人のサポーターが詰めかけるという。韓国での試合はツアー以外でも比較的来やすいから、それ以上の「URAWA」が蔚山文殊ワールドカップスタジアムに爪痕を残すことになるだろう。

 みんなと一緒に、最高にシビれて日本に帰りたい。

(2019年6月26日)

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