Weps うち明け話 文:清尾 淳

#942

12月12日(火)

 実質、最終日。
 ホテルを14時には出る予定で、その前にもう一度全部チェックする。
 飛行機のオンラインチェックインを済ませ、ホテルのビジネスセンターでeチケットをプリントしておく。バスは午前4時にアブダビ空港出発だから、3時にホテルをタクシーで出れば大丈夫だろう。あ、空港のターミナルがいくつかあるだろうから確認しておかないと。
 あれ、エミレーツタウンオフィス出発?
 空港じゃないの!
 何の根拠もなく空港から空港へのシャトルバスだと思っていた。いかん、いかん。あのままだったら、空港へ行ってからバス乗り場を探し、そこから気づいてタウンオフィスまで行っても間に合わないから、結局ドバイまでタクシーで行くことになっただろう。こういう思い込みがMDPのミスを生むんだな。エミレーツタウンオフィスの場所を確認するとホテルからタクシーで10分くらいのところだった。

 14時出発。タクシーに一人で100分はきつい。車の中なので読者やパソコン入力もしづらい。寝ようと思っても寝られない。知っている限りの英語で運転手と話して時間をつぶした。どこまで意思が通っていたかは不明だが。

 15時40分。「ハッザ・ビン・ザイード・スタジアム」到着。
 アブダビのスタジアムよりこぢんまりしている感じだが、きれいな感じがする。 まずはADセンターを探す。着いたところから、スタジアムを挟んでちょうど真反対のところにあるから、けっこう歩く。大丈夫、UAEで学んだ。僕の人生は、だいたいそんなもんだ。
 グレミオサポーターが大勢たむろしているところを突っ切り、やはりプレハブの建物を見つけて入室。通算4回目のチャレンジ。
「ホントニ、スミマセン」
 係員の日本語の発音はきれいだったが、やはりADは出ない。半ばというより、ほぼあきらめていたからガッカリすらしない。前日、クラブの広報スタッフと電話したときに、FIFAにも日本大使館にも何度も連絡してくれたそうで「もうできることはない」と言われていたから、あとは祈るだけだったから。
 僕の祈りの成果は、レッズの公式戦勝率に表われている。

「もし駄目だったらチケットはクラブで用意します」と言われていたので、電話する。しばらくするとスタッフが来て、チケットをくれた。試合は見られるし、机はなくてもメモくらいは取れる。だが、その後の取材ができないのは残念だし、何となく「お前はここに来る資格がなかったんだ」と言われているようで(実際、そういうことだし)、落ち込みそうになるが、試合後に話を聞けなくても取材は取材。何より今季の最後の公式戦を見届ける、というのは自分にとって大事なこと。そう、今から俺は自分本位な人間になるんだ。

 訳の分からない切り替えをして、チケットの券面に書かれたゲートに向かう。途中、チケットをポケットから落として、20分くらい探し回った。これは情けない。もう一枚くれというわけにはいかないし、また自分で買うしかないかな、と諦めかけたときに見つかった。よく風で飛んでいかなかったものだ。ツイているのかいないのか。
 ゲートをくぐる前にレッズサポーターが集まっているところで、クラブスタッフと話をしているとき、電話があった。
「清尾さん。このタイミングなんですが、AD出ました」
 ははは。
 もう気持ちはスタンド観戦になっていたので、バンザーイ、と喜ぶ気にはなれないが、もう一度ここに来たときの気持ちに切り替え直す。さあ、仕事だ。

 メディアセンターに入ると、顔なじみのレッズ担当記者たちが迎えてくれた。J2から復帰したときの感触を思い出した。
 ハッザ・ビン・ザイード・スタジアムは新しく、いわゆる「諸室」も充実しているようだ。メディアセンターは広いし、その隣には飲食物がそろったメディア用のラウンジもある。聞けば、ザイード・スポーツ・シティのメディアセンターはかなり狭かったらしい。それでもメディアに対する飲食物の提供はあった。「ないのは日本くらいだ」と近藤カメラマンが言う。ないのはレッズだけ、ではなくてホッとする。

 スタンドを見ると、レッズサポーターが多い。土曜日の準々決勝よりは少ないが、この試合まで(本来は明日までだろうが)滞在していた人がここまで多いとは正直思わなかった。もしかして今日、明日に照準を合わせて来訪した人もいるのか。今季最後の試合を一緒に見届けられるということがうれしくなった。いつも以上に、選手のプレーすべてを見逃すまい。

 複数得点は10月22日のG大阪戦以来。コンビネーションからクロスに複数の選手がゴール前に入って行くというゴールも久しぶりだ。ウィダードの前線はスピードがあり、一気にサイドを破って危険な攻撃を仕掛けてくる。そこから直接やられはしなかったが、2失点はその流れから与えたセットプレーによるもの。3得点したから勝てた、というのは今季初期のリーグ戦を思い出す。そういう見方をすれば、準々決勝は今季終盤のJリーグに似ている展開だったのかもしれない。

 この5位決定戦の勝利が来季の足がかりになるほど単純なものではないし、FCWC5位が来季のレッズを表わす称号になることもないだろう。
 それでも通算57試合目となるシーズン最後の公式戦を勝利で終えたことは良かった。
 当然ながら今季は海外での試合も多く、国内でもサポーターは北海道から鳥栖まで駆け回った。これから年末年始の準備をするレッズサポーターの気持ちを最悪のものにしなかったというだけでも大きな違いはある。
 それにしても今季57試合のうち、外国のチームとの15試合だけを抜き取ると9勝2分け4敗となる。これをJリーグと同じ34試合に換算すると20勝5分け9敗となり、勝点65。今季の3位に匹敵する成績なのだが。

 帰りのタクシーでそんなことを考えた。最後の計算だけはホテルに帰ってからしたのだが。
 150キロの距離を走って295ディルハム。行きと全く同じ金額なのには驚いたが、発着地点が同じなのだから当たり前なのか。

(2017年12月18日)

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